文章で描かれた絵 『四百字のデッサン』(野見山暁治)  画家の前で風景が立ち現れる瞬間とは【緒形圭子】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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文章で描かれた絵 『四百字のデッサン』(野見山暁治)  画家の前で風景が立ち現れる瞬間とは【緒形圭子】

「視点が変わる読書」連載第4回

  

◾️野見山さんの存在を教えてくれた課長さんとはその後・・・

 

 さて私に野見山さんの存在を教えてくれた課長さんだが、実は私は13歳年上で独身のその課長さんを好きになってしまい、かなり頑張ってアプローチを試みたのだが、全く相手にされなかった。そのうちに私のことが鬱陶しくなったのだろう。電話をしても「忙しい」と言って会ってくれなくなり、それきりになってしまった。

 野見山さんのお別れの会で私は課長さんの姿を探したが、見つけることができなかった。何しろ30年以上経っているのだ。私は20代の小娘ではないし、向こうも30代の中年ではない。お互い気づかなかったとしても無理はない。

 けれど、課長さんがあの会場にいたことを私は確信している。私たちはきっと、野見山さんの遺影か絵の前ですれ違っているはずだ。

 もしもその場面を野見山さんが見ていたら、きっとうまく文章で写しとってくれたに違いない。

 

文:緒形圭子

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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